見るのぐらい許してほしい。

昔の彼の話。昔の彼のことだが、本人も「かわいい系」という自覚もあっただろうし実際にそのとおりであった。もちろんかわいい子が好きなオレはタイプであった。
バイクにも何度か乗った。オレが運転し、その子が後ろに乗る。カップルらしいと周りからは見るかもしれないが、実際そんな気持ちは当事者にはなかなか出てこないものである。
バイクに限らず車でもそうだが、運転というのは周りを見回す必要がある。歩道を歩いている人も見るし、目の前を走っている車や、となり、後ろ。駐車している車両や信号。結構神経をつかっている。
その子は後ろに乗っているだけである。もちろん車ほど油断はできないので、ある程度注意しながら後ろに乗っていると思うが、運転の比ではない。
俺は歩道を歩いているかわいい子がいるとついつい見てしまう。走行中のそれは危険なのでほとんどしないが、信号待ちとかよく見る。無意識にやっているので、ひょっとしたら露骨になっているかもしれないが、俺にはよくわからない。
その子からよく注意された。走行中は前を見ろ!と。いやいや前見てますよ。見て無いと危険でしょ。そのように反論する。しかしその子が言うには、かわいい子がいると明らかにそっちばかりを見ているというのだ。まさか!
オレは大変驚いた。よそ見をしているのだとすれば、こんなに危険なことは無い。
注意されてからオレは露骨なそれは控えるように意識をしはじめた。
しかしやはりまだまだ見ているようであった。その子をバイクの後ろに乗せると、「ハイ!」と言って、俺のメットをつかみ正面に向けるのだ。運転中だと危ないからやめろ!というだが、イケメンを見てるのが悪いと一蹴されてしまった。
そのような状態がしばらく続き、最終的にはいちいち教えてくれるようになった。「あそこにイケメンいるけど見ちゃダメだよ」とか、「高校生の集団きたけど見たらダメだからね」「アレを見るぐらいなら僕のほうがいいよね」オレがまだ気づいていない人もすでにその子はチェックしていた。